非公式編集後記
セキュリティソフトで知られるマカフィーの創業者、ジョン・マカフィー氏がなくなりました。アメリカへの引き渡しが決まったその日、スペインの獄中で自殺したと見られています。
この類の記事はcoindesk JAPANでは珍しいのですが、マカフィー氏は近年、暗号資産まわりで活動し、物議を呼んでいました。
24日朝には、死亡を伝える短いストレート記事を公開。同じ日の夜に、マカフィー氏の生涯を振り返った記事を公開しました。
原文のタイトルは「‘I Regret Nothing’: McAfee’s Wild Ride From Infosec Exec to Crypto Bad Boy」。これを、
「悔いはない」──ソフトウエアの大物から暗号資産の問題児へ、ジョン・マカフィーの軌跡
としました。これだけを見ると、素直に訳した感じですが最終的にこうなるまで、自分の中で二転三転しました
案1:韻を踏む
「悔いはない」は「 」で括ってあることからわかるように、本文で取り上げた同氏の発言から取っています。原文は以下。
少し長くなるが、文脈を理解するために、その前のパラグラフも紹介します。
“The U.S. believes I have hidden crypto,” McAfee, 75, wrote in a pinned tweet, one of his last, on June 16. “I wish I did but it has dissolved through the many hands of Team McAfee (your belief is not required), and my remaining assets are all seized. My friends evaporated through fear of association.
“I have nothing.
“Yet, I regret nothing,”
日本語訳は、
「アメリカは私が暗号資産を隠していると思っている」と、マカフィーは6月16日にツイッターに投稿。この一連のツイートが彼の最後のツイートとなった。
「隠し財産があればうれしいが、マカフィーチームの多くの人の手にわたってなくなった(信じてもらう必要はない)。残りの財産はすべて押収された。友人は、私とつながりがあると思われることを恐れて、去ってしまった」
「私には何もない」
「だが、悔いはない」
悩んだのは、最後の2行、
「私には何もない」
「だが、悔いはない」
最初、あがってきた翻訳原稿は、
「私には何もない」
「だが、後悔もない」
となっていました。「〜もない」と繰り返し、韻を踏むことで、「後悔もない」を強調しています。
最初は、翻訳者さんの意図も理解できるので、これで行こうと思いましたが、問題がひとつ。これをタイトルに使うと、タイトルは、
「後悔もない」──ソフトウエアの大物から暗号資産の問題児へ、ジョン・マカフィーの軌跡
となります。
概ね問題はないのですが、いきなり「後悔“も”ない」となることに、違和感を感じます。
「私には何もない」
「だが、後悔もない」
と続けるなかでの「後悔も」です。
案2:タイトルとの整合性は気にしない
そこで、つぎはタイトルは、
「後悔はない」〜、とすることを考えました。
タイトルは「後悔は〜」として、本文中は「後悔も〜」とするわけです。
この案に決めて「公開予約」ボタンを押しそうになったのですが、タイトルと本文で、マカフィーの発言を助詞だけとはいえ、変えてしまうことへの違和感が、どうしても拭えませんでした。
案3:タイトルを優先し、本文を変える
となると、タイトルは非常に大事なので、タイトルを優先して、本文を優先するという考え方が浮かびます。
「私には何もない」
「だが、後悔はない」
とする案です。当初、意図した「〜もない」と韻を踏むアイデアはなくなります。ですが、韻を踏むと、韻の効果はあるものの、「何もない、後悔もない」とひとつの流れとして感じられ、結論である「後悔もない」がやや弱くなるようにも感じました。
「私には何もない」
「だが、後悔もない」
よりも、
「私には何もない」
「だが、後悔はない」
のほうが、「後悔はない」がより強調されると思います。なので、韻のアイデアはやめることにしました。
最終案へ
ここまで、韻を踏む、タイトルとの整合性は気にしない、やはり気にする、と迷ったすえ、
「私には何もない」
「だが、後悔はない」
に落ち着きました。でも、話し言葉としては堅い感じがします。理屈っぽく言うと、「後悔はない」は、締めの動詞の「ない」が2文字で短いのに、主語の「後悔」は4文字もあり重い。トップヘビーな印象です。
そこで、より口語調にすることにして、最終的に、
「私には何もない」
「だが、悔いはない」
としました。今見ると、「だが、」も要らなかったかもしれませんね。
「私には何もない」
「悔いはない」
この方がすっきりしていたか...。
とまぁ、ストレート記事はタイトルにここまで悩むことはほぼありませんが、読み物系の記事はタイトルが重要なので、ちょっと悩んでみました。
昨夜「関ジャム」で音楽プロデューサーの本間昭光氏が、人気ボカロPの音作りを知って、ピアノの音が大過ぎるとミキサーのメモリの0.1の違いにこだわるとか、自分は小さい男だなと感じた、というようなことを言ってましたが、それに近いものがありますね。半ば自己満足的なところがあるかもしれません。
おまけ1:Wild Rideの訳
それよりも「ジョン・マカフィーの軌跡」の「軌跡」をもう少し考えるべきだったかなぁ。
原文は「Wild Ride」。カッコいい言い方をしますよね。他のメディアのタイトルには「数奇な人生」も使われていました。もちろんそれも考えたのですが、ちょっとありきたりな感じもして…。
それに、coindesk JAPANというメディアの特性というかトーンもあります。なので、ここは翻訳者さんが選んできた「軌跡」というニュートラルな単語を生かしました。
おまけ2:「改行」か「シフト+改行」か
これこそ、ミキサーのメモリ0.1にこだわるような話ですが、
「私には何もない」
「悔いはない」
の2つの文章は、通常の改行ではなく、「シフト+改行」を使っています。htmlのタグで言うなら通常の改行で使われている<p>タグではなく、<br>タグ。2つの違いは、以下です(coindesk JAPANの画面とは厳密には違うと思いますが)。
<pタグ>
「私には何もない」
「悔いはない」
<br>タグ
「私には何もない」
「悔いはない」
行間が詰まっているはずです(OSやブラウザによって違うかもしれません)。
この2文は、分かれているけれど、まとまりとして意識してほしいので、敢えて<br>タグを使いました。気づいた人、いるかなぁ。エラー(設定ミス)にも思えますよね。