非公式編集後記:2021年3月1日(月)〜3月7日(日)
3月1日-2日の「btokyo ONLINE 2021」、面白いセッションが続き、登壇者から興味深い発言がありました。個人的に気になった点を3つあげます。
インフラをめぐる水面下での戦い
1日目の[決済をアップデートする──「次世代インフラ」から「クロスボーダーペイメント」まで]
2日目の[J.P. モルガン、オニキス(Onyx)のグローバル決済ネットワーク新構想]
など決済インフラをテーマにしたセッションは、ユーザー目線でみれば地味なテーマなのですが、ITビジネスに当てはめると、アマゾン、IBM、マイクロソフト、グーグルなど世界的な大企業が競争を続ける「クラウド」に似ています。
デジタル化が進展するなかで「決済基盤」を誰が構築し、担っていくのか。
三菱UFJフィナンシャルグループと米アカマイ・テクノロジーズが共同設立したGO-NET(グローバルオープンネットワーク)は今年、世界最速の決済ネットワークの運用を始めます。
セッション中には、車がEVになり、自動運転が実現するなど、今後、今よりも大量のデータが行き交うようになった時、そうしたデータをどうやって迅速に処理するのかを考えないといけない、というような発言がありました。
インフラの動きは、なかなか表には出てきませんが刺激的な分野です。
ちなみに「アカマイ」は、世界最大級のCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)事業者。こちらもインターネットという巨大インフラの一部を構成する「知られざる巨人」です。
2000年頃、インターネットデータセンターの取材をしたことがありましたが、アカマイは当時、画期的なCDN事業者として華々しく登場していました。CDNという言葉自体がアカマイの代名詞だったように思います。
当時は、映画など大容量コンテンツがCDNのターゲットとされていましたが、金融データ、決済データは1件1件は小さくても、全体でみれば、膨大かつリアルタイムでの処理が求められるデータです。
CDNを実現している大容量で高速なネットワークが不可欠というわけです。
そうした状況の中で、米銀最大手のJPモルガンは世界中の金融機関・企業・政府が利用できる次世代の決済・データプラットフォームを構築しています。
JPモルガンの取り組みについては、btokyo ONLINE当日にすでにcoindesk JAPANに公開しているので、ぜひご覧ください。
それにしても、当日、JPモルガンのセッションを聞いていて感じたのは、グローバル・ビジネスを担う人物のプレゼンテーション力の恐るべき高さ。
理路整然とした話し方であることはもちろん、ポジティブさ、力強さ、そして見ている日本の顧客に対する配慮……。「これがグローバル・スタンダードなのか」と一人で感じ入ってました。
DeFiは大手金融のバックエンドシステムになる?
字幕作成を担当した[DeFiは金融を変えるか?──「中央集権型vs.分散型」のデジタル金融をめぐる論点と課題]は、DeFiプロジェクトのガバナンス(ガバナンストークン)の問題、DeFi市場を表すデータの問題などに切り込んでいきました。DeFiはアメリカが先行しているので、かなりマニアックな内容だったと思います。
その中で登壇者の一人で、DeFiを代表するプロジェクト「コンパウンド」のカルビン・リウ氏がDeFiと既存の金融機関との関係で面白い発言をしていました。
まず、冒頭でDeFiの将来像について、
「単なる流行ではなく 金融の未来の一部を担うでしょう。問題は どれくらいの規模になるかです」
「暗号資産に特化し続けるのか、あるいはいつか大手金融機関のバックエンドシステムになるのか、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を使うようになり、政府でさえ“DeFi”と呼ぶようになるのか」
と述べていました。
大手金融機関のバックエンドシステムとか、中央銀行デジタル通貨は、たとえ話のひとつとして出てきているのかと思ったのですが、後半でフィンテック企業など、非クリプト領域の企業と取り組みを進めていることに触れて、
「DeFiプロトコルの活用などが目的ですが、彼らの最大の関心事はDeFiが実現している高利回りです」
「しかし高利回りの理由の一つは大手金融機関がアクセスできないことです。つまり大手が参入すればDeFiと銀行口座の利回りの差はなくなります」
「大手が参入することで利回りを得るチャンスはなくなってしまうと考えています」
と述べています。
つまり、DeFiは今は規制も及ばない(=規制が追いついていない)、最先端サービスとして登場していますが、いずれは一般的な金融サービスの一つとなり、誰にでも使えるようになると考えているようでした。
「金融における競争の場が平準化された」という発言もありましたが、今後、DeFiが一般化し、今は大手金融機関だけが使えるような高度な金融ツールが一般の人でも使えるようになった時、金融サービスはどうなるのでしょうか。
「高利回りの理由の一つは大手金融機関がアクセスできないこと」との言葉にもあるように、一部の人しか使いこなせないことが競争優位性を生み、利益を生んでいます。
それが誰にでも使えるようになった時、つまり競争優位性がなくなった時、そのサービスには存在意義があるのでしょうか?
水道やガス、電気のような必要不可欠なサービスもありますが、金融はそうした類のサービスでしょうか。
競争優位性の話題は、btokyo ONLINEのほぼラスト(最後から2つ目)のセッションでも提起されました。
デジタル通貨の話は“ツマラナイ”
2日目、3月2日16:15 - 17:30の[何のためのデジタル通貨か?──「CBDC」から「プログラマブルマネー」まで]は、btokyo ONLINEのコンテンツ・プロデューサーとしては、2日間のまとめ的な意味を込めたのだと思います。
なので「何のためのデジタル通貨か?」と広いテーマだったこともあり、話はいろいろな方向に広がりました。司会がジャーナリストでキャスターの堀潤さんだったので、そこは見事な展開だったのですが、後半に入った頃の安宅さんの発言で話が一気にヒートアップしました。
「この話題はツマラナイ」という発言でした。「この話題はすでにdone deal(終わっている)」という言い方もされていました(deal doneだったか?)
この発言が出た時に、現場スタッフ、特にプロデューサーの顔が青ざめる様子が目に浮かびました。いや、違いますね。発言に困惑しつつも、「面白いことを言ってくれた!」と興奮していたに違いありません。
「ツマラナイ」理由については、当日の流れもあるのですが、私なりに整理すると、
- 中央銀行デジタル通貨(CBDC)や民間発行のデジタル通貨の話は、仕組みの話であって、すでに議論は尽くされている
- 一方、ビットコインはもはや投資対象の資産であり、「デジタル通貨」にはならない。
- よって、デジタル通貨で新たに議論すべきことはない
ということだと思います。
ビットコインはもう、デジタル通貨の議論には入らない
これは私が今回のbtokyo ONLINEで明確に認識できた大きなことでした。日本ではすでにビットコインなどの呼称は「暗号資産」とされ、仮想通貨という呼び方は減ってきています。
ビットコインはゴールドや株式のような「資産」であり、「通貨」ではない。当初は「通貨」であることを目指したかもしれませんが、ビットコインを裏付けるものは有形資産ではなく、利用者の「合意」だったからこそ、ユーザーが増え、人々の合意がそこに蓄積されていったことで、価値が膨らんでいると言えるでしょう。
この議論は、もう少し丁寧に進めないと観念的過ぎますね。
人々の「合意」に基づいて始まったビットコインは、今やマイナーが大きな資産(マイニングマシンや電力代、施設など)をつぎ込み、「裏付けとなる資産はない」とは言えません。
スタートアップ企業がVCなどから資金を調達するように、ビットコインはマイナーから資金を調達し、時価総額を膨らませていると言えます。
話が少し逸れましたが、ビットコインは「資産」。これが明確にできました。
もちろん今後、価値が安定し、通貨のような役割を果たす可能性はゼロとは言えませんが、その可能性はかなり小さいでしょう。
そしてもう一つ、2つ目の最後にあげた競争優位性の問題を簡単に。
あらゆるビジネスは、情報の非対称性で成り立っています。つまり一方は持っている、もう一方は持っていないというアンバランス(非対称性)が存在する時に、ビジネスは成立します。
デジタル通貨はあらゆる取引がオープンになり、透明性が高くなることがメリットとされていますが、すべてのお金の流れが明らかになることは、企業にとってはお金の流れ=ビジネスの仕組みが明らかにされることにつながり、メリットとは言えません。
情報がオープンになり、すべてのアンバランスが解消された時、私たちの目の前には、静かで広大な海が広がるかもしれません。
ですが風がなければ航海ができず、波がなければ面白い景観も生まれせん。
お金の流れがオープンになり、DeFiの一般化で、高度な金融テクノロジーの非対称性もなくなったとき、一体どんな世の中が目の前に広がっているのか。想像力を働かせる必要がありそうです。
作業記録
3月1日(月)翻訳・編集ワード数:334
3月2日(火)翻訳・編集ワード数:567
3月3日(水)翻訳・編集ワード数:1149
3月4日(木)翻訳・編集ワード数:1199
3月5日(金)翻訳・編集ワード数:938
3月6日(土)翻訳・編集ワード数:454
3月7日(日)翻訳・編集ワード数:1260